『ガラス箱の蟻』『英雄の誇り』『眠りと死は兄弟』『盃のなかのトカゲ』
〜 ピーター・ディキンスン ピブル警視シリーズ4冊セットプレビュー
ガラス箱の蟻
太平洋戦争がはじまり、日本軍が侵入してくるまで、クー族はニューギニアの谷間で、宣教師のマッケンジー夫妻とともに平和な暮らしを営んでいた。だが、その平穏な谷間も、ある日部落に傷ついた白人の飛行士が逃げこんできたことから、日本軍の襲撃をうけ、村民のほとんどと宣教師夫妻が虐殺され一夜にして地獄と化したのだ。
それから二十数年後、生き残りのクー族は、ロンドンの一郭のアパートでほとんど外出せず、一日中青白いテレビを見、古い部族の儀式を守りながら暮らしていた。残り少ない一族がバラバラになることを恐れた酋長とクー族の一青年と結婚した宣教師の遺児のイブが彼らをニューギニアから連れてきたのだ。
ロンドン警視庁のピブル警視が手がけることになった殺人事件はそんな奇妙な環境のなかで起こったものだった。殺されたのは酋長のアーロン。夜遅く外出から戻ったところを、暗い踊場で待伏せていた犯人に一撃されたらしい。犯人は左ききらしいこと、被害者が握りしめていた両側ともに肖像のある妙な銅貨に何か意味がありそうなことはまずわかったが、それ以上のことはピブル自身全く白人と異った特殊な風習をもつクー族の中に入っていかなければ分からぬことだった!
―奇妙なシチュエイションに見事な本格ミステリを展開し、二年連続CWA賞受賞に輝く俊英、期待のピブル警視シリーズ第一作!
英雄の誇り
ヘリングズは英雄の館にふさわしく、夢のような美しさだった。広大な敷地に大小の館が建ち、森や林が点在し、晩秋の光の中でライオンが寝そべっている。しかし、その美しさは巧みにつくられた人工的なものだった。スチーブンソンのロケット号が走り、模擬の決闘が行われ、絞首台がしつらえてある。19世紀の古き良き英国をそっくり再現しようとする意図だ。そのつくられた舞台装置の中をカメラをさげたアメリカやドイツの観光客がぶらついている。
英雄は双生児のクレヴァリング兄弟。英国の最も古い家柄の貴族である彼らは、第二次大戦に栄光の絶頂をきわめた。彼ら兄弟による大胆不敵な奇襲作戦の成功によって、英国はドイツに対する反撃のチャンスをつかんだのだ。が、戦後、彼らは栄光に包まれたままヘリングズで隠退生活に入ってしまい、ラルフ卿の娘夫婦に観光客相手の商売をさせている。ロンドン警視庁のビブル警視が派遣されたのは、ここヘリングズである。英雄の忠実な老召使が首吊り自殺をとげたのだ。ごくありふれた事件のはずであった。が、この人工的な美しさに輝いた巨大な舞台装置に一歩足を踏みいれたとき、ピブルは異様な気配をかんじとった!―『ガラス箱の蟻』と本書で二年連続CWA賞に輝く気鋭が、奇想に満ちたシチュエーションに展開する堂々たる正統派ミステリの傑作!
眠りと死は兄弟
ピブルがその荘重なゴシック風建物の表玄関に立つと、ドアが内側からゆっくり開き、妙に間のびした子供のあいさつが聞こえた。ドアの陰にいて、こんどはドアを閉めようとけんめいの努力をしている二人の子どもの声だった。声だけでなく、動作もまるで水の中を動くようにひどく緩慢だった。彼らは極端にふとっていて、触れると大変冷たい肌をしている。12歳ぐらいの子供たちだったが、実は知能も肉体も幼児程度であることをピブルは知っていた。キャシプニー(眠り病)が彼らを犯している奇病の名だった。
キャシプニーにかかると、患者は一日20時間も眠るようになり、特殊な治療をほどこさないと一年以内で死に至る。管理者のジョーンズ夫人とシルヴァー医師が運営しているこの施設が最近資金難に陥った。なにかわけがあるのかもしれないから訪れてみてくれと妻のメアリーに頼まれ、ピブルは重い腰をあげたのだった。だが、施設の中に入ったピブルは、資金難とは別に奇妙なことに気づいた。知能の発達が遅れたかわりにテレパシー能力の発達した子供たちが、何かにおびえ、警官であるピブルにジョーンズ夫人の身に危険が迫っていることを知らせようとしているのだ・・・!
二年連続英国推理作家協会賞に輝く本格派の異才がさらに奇妙なシチュエーションのもとに描く最新話題作!
盃のなかのトカゲ
ギリシャ南西岸沖、イオニア海に浮かぶ島、ヒオス。しだいに忘れられていく古代の僧院と、不気味な毒トカゲの伝説が残る島。まばゆい陽光と美しい海に、ひとときの安らぎをもとめて訪れる旅行者も少なくない。あるいはホテルで、あるいは別荘で短い休暇を楽しみ、去っていく。しかし、島一番の豪華な別荘では、大富豪タナトスに危険な影が伸びはじめていた・・・。
タナトスは、強大な財力と権力で世界各地の実業界に君臨していたが、その強引さは多くの敵をつくっていた。そして今度は、こともあろうに、西インド諸島のマフィアの利権を横どりしたのだ。組織の復讐は当然考えられる。富豪が信頼する四人の部下がヒオスに集められた。それに、専門家として、ロンドン警視庁のもと警視ジェイムズ・ピブルがつけくわえられた。五人の、マフィア対策の机上演習は、愛人トニーとたわむれるタナトスとは逆に、鋭い緊張感のなかではじまった。正面からの襲撃か、あるいは姿を変えた刺客が忍び寄ってくるのか、それとも内通者が・・・?島への上陸はすべてチェックされ、アメリカへはプロのボディガードが要請された。が、ピブルの心を離れない危険の予感にもかかわらず、みえない敵は容易に姿を現わさなかった・・・。
二年連続CWA賞に輝く、イギリス・ミステリの実力派ディキンスン。ピブル警視シリーズ第四弾!
※このページのプレビューは、すべて書籍のカバー文に掲載されているものの引用です。
※画像をクリックすると、拡大します。
